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「今だから言うけど」
母がカラカラと氷水の入ったグラスを鳴らした。
「お父さんにもね、若いころちょっとあったのよ。永嶺さんに比べたら100分の1くらい地味なあの人にも」
「うそっ」
100分の1はちょっとひどくないかと思うが。
「新人の先生として入ってきた若い子にね、告白されたの。綺麗な子だったわ」
「マジ? 」
「マジよ。でもあの人は根が真面目だから自分は既婚者だとその場で断ったんだけど、相手の子がなかなか諦めてくれない子でね。そのうち私にもバレてしまって」
うわー。
「お父さんが裏切ったわけじゃない。それでも私には十分辛かったわ。今日もあの二人は同じ職場にいるんだと思うと、胸の中が焼けつくようだった。あの人をそんな目で見ている人が同じ空間にいるんだと思うと。お父さんがいつもより帰りが遅くなったり、週末に学校に出ていくことがあると、疑心暗鬼にかられたりしてね」
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