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「で、どうなったの? 」
「上が配慮してくれたのかどうかわからないけど、翌年その子は違う学校に移動になった」
「よかったねー」
「でもまだ同じ町に住んでいた。二人で出かける時、どこからかその子が見ているんじゃないかと気が気でなかったわ」
母が苦笑した。
「私が妻なんだから強い立場なんだとわかっていても、気持ち的には嫌なものなのよ。数年後、噂でその子が結婚して引っ越していったと聞いた時には、ほんとに心の底からホッとしたのを覚えているわ」
その気持ちはわかる気がした。
「たった一人の人でさえもあんな嫌な思いをした。永嶺さんほどの人なら、今まではもちろん、これからもアプローチしてくる人が次々現れても不思議じゃない。昔の自分を思い出して、理佐がそれで辛い思いをするのではとつい心配になるのよ」
彼の妻になる覚悟があるのかと聞いたのはそういう意味なのよ、と母が静かに微笑んだ。
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