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「すいません、降ります」
地下鉄の中で脇を通る人の声にハッとする。ここで私も降りなきゃ。危うく乗り過ごすところだった。
――― 彼を誘惑するような人が出てきたらどうしようとか思わなかった?
――― 永嶺さんほどの人なら、アプローチしてくる人が次々と現れても不思議じゃない
そうなのかもしれない。怜が来た時秘書室の女性たちが色めき立ったという話は誰かに聞いたことがある。でも彼はあまり感情を出さない人だったので冷たい人だという印象を持たれたとも……ああ、そうだ。堀口さんがそう言っていたんだ。
上りのエスカレーターに乗りながら降りてくる反対側の人たちを観察する。いろいろな顔立ちや背格好の人たちがいるけど……この中に怜がいたらどうだろう。確かに目を引くかもしれない。
この4年間、怜に何があったんだろう。私がいなくなって、粟谷さんは怜にアプローチしなかったんだろうか。
盗撮事件なんてもしかしたら氷山の一角だったのかもしれない。
頻繁にメールをくれなかったのも忙しいからだと思ってたけど、もしかして……
本当に怜には何もなかったんだろうか?
ううん、怜は会社に寝泊まりするくらい忙しかったんだ。誰かにアプローチされたって応じる暇なんかなかったはず。
頭の中を色々な思いがぐるぐる回りだす。
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