番外編 (日本にて): あの人の急襲

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「彼はあれほど頑なに何も変えたくないと言っていたうちの店長の気持ちを2週間程でもののみごとに動かしていきました。インテリアの専門家と相談しながら、どんなアートや調度品を目のつく所に持ってくるか。新しいのを売りつけるだけでなく、今あるのをどのようにもっと生かすか」 西方さんが遠くを見るような目で語りだした。 「うちの店を根本から変えるのでなく、周りの店と比べてどこが強みか、守るべき伝統は何で時代に合わせるべきは何か、それこそ店長が亡くなった母親の形見で大切にしていた小さな絵の価値と生かし方に至るまで、それはもういろんな観点から店長と何日も話し込んでいました。彼は、」 彼の視線が私の方を向いた。 「アートの価値を売り込むだけでなく、まさにビジネスコンサルタントのようでもありましたね」 ビジネスコンサルタント……。そういえば怜はアメリカでビジネスの勉強をしていたんだった。 「最後にはうちの店長に “いつでも食べに来てくれ、奢るから” と言われるくらいの関係になってましてね。これで僕と同い年なのか。僕はまだろくに包丁も持たせてもらえない立場なのに、すげえや、と驚いたり悔しかったりしたのを覚えてます」 「そうなんですか……」
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