番外編 (日本にて): あの人の急襲

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「西方さんはいつ東京に戻られたんですか?」 「永嶺君より2年くらい前に。で、この店を開いたのがそれからさらに2年半ほどたってからで、今年で4年になります」 じゃあ私がパリに行った時はもう帰国されていたんだ。 「パリでの彼を見て僕も奮起しましてね。覚えられるものは全て覚えようとし資金のほとんどは食べ歩きに費やして、料理の味のみならずメニューの構成、店の応対のようす、客の様子や反応、ありとあらゆることをメモして学びました。ここもおかげさまで客筋が途絶えることなくやっていけてますが、あの時彼に再会したおかげだとも言えるんですよ」 その時、「失礼します」 と背後から声がかかった。 「店長、こちらお持ちしました」  まだ20代前半と思しき彼女が持つトレーの上には、涼し気な青みがかったガラス皿とそろいの取り皿、ワインボトル、そしてワイングラスが乗っていた。 「永嶺君が来るまで、こちらをお召し上がりになってはいかがですか? 当店自慢の前菜の一つ、冬野菜のテリーヌと豆のサラダです」 西方さんが青いガラス皿をテーブルの中央に置き、取り皿を私と母の前にそれぞれ並べてくれた。
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