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「……主人が調べたんです」
母の声だ。ちょっと、ここにいると二人の会話の内容が丸聞こえじゃないの。
「あなたは以前は高級美術品売買の世界でかなり名の知れた方だった。そしてその後は財政危機に陥っていたお爺様の会社である栄詳出版を立ち直らせた、今若手の経営者の中でも最も注目されているうちの一人であると。ビジネス雑誌などでも名前が挙がっているそうですね」
調べたって、お父さんが!?
「率直に申し上げますが、その地位でその容貌でその経歴で、永嶺さんの妻になりたいという方はいくらでもいるのではないでしょうか? 」
ちょっとお母さんったら何を言うの!
思わず身を乗り出しそうになった私の肩を西方さんが抑えた。振り返ると彼が人差し指を口に当てている。
「それは僕にはわかりません。ですがひとつだけ僕にはっきりわかっているのは、僕が妻になってほしいのは本郷理佐さん、彼女だけだということです」
「理佐は確かに私たちの可愛い娘です。でも理佐が育ったのは平均的な家庭で、ことさら金持ちでもなければ国際的だというわけでもありません。世界を所せましと活躍してこられたあなたがどうしてそこまで理佐を……」
「……それは、」
そのあと少し間があって再び怜の声が聞こえてきた。
「……かなり個人的な話になってしまいますが、聞いていただけますか」
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