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「僕の両親は僕が8歳になる直前に別れました」
「まあ」
息を呑むような母の返答が聞こえた。
「それは……お辛かったでしょうね」
怜……。まさか自らあの辛い体験を話す気なの?
「もっと正確に言うと、僕は母に捨てられたのです。あの日、夜中に母が知らない男と出ていこうとした時に気配で目覚めました。ただならぬ雰囲気によく事情も分からなかったけれど出ていこうとする母を必死に止めました。でも母は僕の手を振り切って行ってしまいました……」
怜の声が少し震えているような気がするのは気のせいだろうか。
「その時の光景はその後何度も頭の中でフラッシュバックしました。そして大きくなるにつれ、血のつながった家族ですらこんなことができるのなら、他人の愛情なんかあてになるはずがない、だから自分は結婚もしないし家庭も持つ気はない。そう自分に言い聞かせて生きてきたんです」
母の返答は聞こえてこない。
「おっしゃられたように大学を出てからはアートディーラーとしてそこそこ成功してたので、自由だし金に困らないしずっとそうやって生きていくつもりでいました」
「じゃあどうして、」
「理佐さんと出会うまでは」
「……! 」
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