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「怜が言ってたとおりだね」
しばしの沈黙の後、私がつぶやいた。
「何が?」
怜はまだ身じろぎもしないで私にもたれかかったままだ。
「そばに大切な人がいるというのがどれほど嬉しいことなのか、どんなに心休まることなのか、ってお母さんに言ってたでしょ」
「……ああ」
「正直、なぜ私に対してよりもお母さんに対してのほうがあんなに雄弁なの? と思ったりもしたけど」
「納得してもらおうと必死だったからな」
そうか、考えてみれば説得って怜にとってはいつも使ってる仕事上の重要スキルなんだ。だから母に対してはあんなに流暢に話していたのか。
それでも―――
「それでも、今日は怜がどう思っていたか聞けて嬉しかった。間接的にでも」
「理佐」
怜が頭を少しずらし上目遣いで私を見た。珍しいアングルからの視線にドキッとする。
「間接的にでも、って……。まだ離れていた時のことが気になるのか? 」
「ううん。でもやはりああいうふうにはっきりと言葉で聞けると嬉しいものなんだよ」
「……やっぱり不安だったんだな」
「それは……不安にならない時がなかったって言えば嘘になるけど」
「やはり俺からの連絡が遅くなりがちだったからか……? 」
「うん……。でも、私のことを考えずに仕事に集中したかったんでしょう? 」
「……それ、敬之から聞いたのか? 」
「あ、えっと」
「あいつ、そんなこともしゃべったのかー」
肩にあった怜の頭がそのまま降りてきて私の膝の上にストンと納まり、膝枕しているみたいな格好になった。怜が自分からこんなことをしてきたのは始めてだ。
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