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「だって、申し訳なくて……」
私は彼に何ができたのだろう。いや、これから何ができるのだろう。
「理佐が申し訳なく思うことはないさ。これだけ待たせたのは栄詳の、つまり俺の方の都合なんだし」
怜の両手の親指が私の頬をぬぐった。
「他に何か不安に思ってたことはある? 」
ゆっくりと横に首を振る。
「そうか」
微笑んだ怜の肩を押してまた私の膝の上に横になってもらった。
「いやこの体勢は重いだろ。だからもう、」
再び起き上がろうとした彼を制した。
「ううん、嬉しい」
「はぁ? 嬉しい!? 」
「私だって怜に会いたくてもう限界だったし。それもあって日本に行こうとしてたんだし。だから、」
見上げている彼の頬をこんどは私が手のひらでゆっくりと撫でる。
「だからこんなふうに怜だって甘えたい時があるんだってわかって……嬉しい」
「そんなものか? 」
「うん」
「……なんかそれってやっぱりカッコ悪くないか俺……」
「違うよ」
下を向いてかがむと怜の額にキスをした。
「甘えられる相手っていうのは、それだけ相手のことを信用して心を許しているってことでしょ? それが嬉しいの」
思えば8歳で母を失い両親の離婚を経験した彼は、子供としてもそれ以来誰かに甘えたりはできなくなったのだろう。でも子供だけじゃなく、大人だって、男の人だって、誰かに心を許して甘えたい時はあるはずだ。
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