3596人が本棚に入れています
本棚に追加
/1588ページ
***
「お疲れー」
馴染みの近所のレストランでグラスを傾ける。
「母の急襲に対応してくれてほんとにありがとうございました」
わざとかしこまって頭を下げると、怜が 「いいお母さんだよ。エネルギーあるし、行動的だし」 と笑って答えた。「そしてなにより娘のことを考えてくれているんだし」
「まあねー」
「それに彼女のおかげで、理佐がなんだか持ってたらしき疑いを解くこともできたみたいだし? 」
「いや疑ってたわけじゃないんだけど……」
怜がいろいろとカッコよすぎるのが問題なんです、とは言えない。
でも外ではあんな風に年上のベテラン役員たちを率いて頑張ってる彼が、うちに戻ってきて甘えたいと思うのは私なんだ。
そう思うとなんだかくすぐったいような嬉しいような不思議な気持ちになってしまった。
「またなんかニヤニヤしてるな」
「え、あ、ううん」
「なんだよ」
「いえ、えっとね、さっきの甘えモードがね、可愛かったな、って」
「俺の? 」
「うん、まあ男の人が可愛いって言われてもあまり嬉しくはないだろうけど、でも、」
「あれは理佐だけに見せる顔だから」
私が思っていたことをずばり言われてしまった。
「あ、うん」
また顔がにやけそうになる。
「嫌か? 」
「え? 違う違う、嬉しい」
嬉しい? と意外そうな表情の彼に 「だって私だけが知ってる怜だもん、嬉しい」 と答えてテーブルに置かれた彼の手を自分の手で包んだ。
最初のコメントを投稿しよう!