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「……そんなものなのか?」
手を包まれてちょっと照れくさそうな怜が視線を逸らしながらつぶやいた。
「うん」
その時、彼の背中越しに店の壁に掛けられている絵が目に入った。
「怜、あれ」
私の視線の先を追って彼が振り返る。
「あ」
あれはコローの絵だ。間違いない。
パリのルーブル美術館で見た『モルトフォンテーヌの思い出』の複製画だ。
怜が模写していた絵だ。
そしてあの時……
「怜の好きな絵だよね」
「ああ」
「泣きそうなほど感動して見つめてた」
「え?」
「最後の日」
飛び出すようにして私の目の前から急にいなくなった怜を見つけたのは、この絵のある展示室だった。
「……はは」
思い出したのか、怜は苦笑ともなんともいえない笑みを漏らした。
「確かに」
私の手の中から怜の手がすっと抜けて逆に包まれてしまった。
「泣くほど、」
ぎゅっとその手に力が入る。
「……辛かった、あの時は」
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