3596人が本棚に入れています
本棚に追加
/1588ページ
やっぱり……あの時、怜は泣いてたんだ。大好きな絵の前で。
「……ごめんね」
「理佐が謝ることじゃないだろ」
「そうだけど……」
「将来を共にしたいと思った女ともう会うなと言われて、その理由は頭では理解したが感情が全然追いつかなかった」
「…………」
「でも、もう過去のことだから」
「あれからルーブルには行った? 」
「いや、すぐにパリを離れたし」
そうだった。
「私のことを思い出しちゃうし? 」
ちょっと重たくなった会話を明るくしたくて茶目っ気を入れて言ったのに、「そう」 とストレートな答えが返ってきてしまった。
「それは、あのビジュアルメモリーのせい……」
「まあね」
「ね、じゃ、また二人でパリに行ってあの絵を見ようよ」
掌を返して彼の手を握り直す。
「それであの時の辛い記憶を上書きしよ? 」
元々、パリでは彼と過ごした楽しい思い出だってたくさんある。
「それにアニーさんにもマリアンヌさんにもまた会いたいし」
「そうだな」
怜が微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!