プロローグ

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虎太郎は慣れた動作でカウンター周りを整頓すると、運転席へ移った。 しかし思い立ったように引き返し、車内の冷蔵庫を開ける。 「ことり、これ食え」  助手席のことりに差し出されたのは、小振りだけれどホールサイズのショートケーキ。 真ん中には“HAPPY BIRTHDAY”と書かれている。 「おいしそう」 「だろ」 「でも虎太郎さん、今月誕生日ケーキ貰うの3回目だよ」 「いいんだ。適当に祝ってりゃどれか当たる」 「そうゆうモン?でも正解がわかんないのに、どうやって答え合わせするの?」 「別に当てようと思ってるわけじゃねえよ」  ことりは、自分の誕生日を知らない。  戸籍には、“10月31日”と記されているけれど、 それは、生まれて間もなく捨てられたことりを受け入れた、施設の職員が設定した誕生日だ。 10月31日は、ことりが捨てられた日。 ことりは、その日がとても嫌いだった。
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