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「なんやろなぁ、なんか、元気さ?生命力?が足りひんねんなぁ。花もないし。疲れてんちゃう?まあ、しばらく休みいな」
大阪、天王寺。
逢坂にある雑居ビルの中の小さなモデル事務所。
趣味の悪い応接セットで社長と向かい合い、福井ひとみは事実上の、“お暇”を貰った。
二十九歳。モデルとしては、今後が決まる頑張り時だというのに。
十代の頃はそれなりに仕事はあった。
けれど、年々確実に需要は減っていき、他にもバイトを始め、ついにはこの有様だ。
社長は今や“結婚してはどうだ”と、暗に寿引退を勧めるような言い方すらしてくる。
でも、昔はそうではなかった。――昔は、色白でスラっとしたひとみを、社長はとても可愛がってくれたものだ。
ひとみがモデルになりたいと思ったのは、小学生の頃。
周りの大人から、度々可愛いと褒められ、そして背も高く、モデルという将来を意識するのは、ある意味自然な環境だった。
両親だって応援してくれたし、何よりやってみたいと強く思っていた。
ただ、それがとんでもなく厳しい世界だということを、今は嫌と言うほど痛感している。
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