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「意外だった」
「そう?」
「君にはひどく殴られた」
「そうだっけ」
「慎一郎が誕生した時」
「あー、だったね。あれは今でも謝る気はないよ」
「それでいい」
「けど、何かと助け船を出しているのは僕」
「そうだ、武君は茉莉花の様な女は一番許しがたい存在なのかと思っていた」
「僕は神様じゃない。断罪できる立場にはないよ、君のことも、君んところの女性方も」
「わかっている」
「さっちゃんが――我が家の山の神だけど」
何度も椅子を軋らせ、くるくると回りながら武は続けた。
「君のこと、すごーく怒ってるって言っただろ」
「ああ、未だに君の家の敷居をまたげないでいる」
「ひどい男だ、房江さんを裏切るなんて、ってプリプリしてさ」
「そうだな」
「けどさ、さっちゃんの言う通りだ、まったくだよ、って言ってあげたらさ、どう言い返すと思う? 何てひどい人なの、茉莉花さんを――ああ、さっちゃん、茉莉花さんの名前は知らないからね、とにかく彼女を守ってあげないの、悪者扱いするの、何て男気のない人なの! と、もう叩く叩く。じゃ、僕はどーすりゃいいのさ、と降参したら、情けない人ね! 自分で考えなさい! だと。もうお話にならない」
男は同時に吹き出した。
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