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「苦労かける」
「まったくだよ。さっちゃんは房江さんと仲が良いからね。我が家じゃ、さっちゃんが房江さん派。対する僕は茉莉花さん派というわけさ。さっちゃん、政君のことを自分の息子のように可愛がってたからね、お互いがどちらかの面倒を見れてちょうどいいらしいよ。女の理屈はめちゃくちゃだけど、それなりに収まりがいいんなら男の僕は合わせるだけ」
かつん、と靴の踵で床を打ち、武は言う。
「僕は君達家族のことはなるべく平等に接したいと思ってた。でも、子供たちは別。どうしてもバイアス入る。政君は多分大丈夫。だって彼はカナちゃん……ああ、長男の嫁のことだよ、僕がカナちゃんって呼んでることは政君には言わないように! きっと怒るから。彼、怒らすと怖いんだもん。ともかく彼女を娶った。カナちゃんは僕の受け持ちの生徒だったから良く知っている。政君、まだ若いのにでかしたと言ってやりたい。夫婦そろって人を見極める確かな目を持ってるし、余程のことがない限りふたりは円満な家庭を築けるだろう。僕が心配しているのは次男の方。彼はおそらく大人になるのに時間がかかる。今、守られなければならないのは彼だよ」
武に名指しされた、一番に守られるべき子供・慎一郎。
不義の関係を持った両親から産まれ、負い目を若い内から背負わせた。
罪は私たち大人にある。
今、茉莉花は死に往こうとしている。
彼女の道行きが少しでも明るく、苦痛を少しでも和らげることを第一に考える。
なぜなら、茉莉花は自らの病を知らないから。
おそらく、うすうすは感付いている、しかし、彼女の運命をつまびらかにすることはもうできない――
今の自分は、眠り続けるだけの彼女に付き添い、目覚めた時に眼差しの先にいてやることだけだった。
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