第1章

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◇ ◇ ◇ 年若くして結婚した長男は、母親や妻の一家の反対を強引に押し切って結婚した。 学生の内からすでに新進気鋭の書道家として頭角を現し、制作に打ち込める場を求めていたていた彼は、実家を出たがった。 青山は自分の『家』ではないと言い切った。 今までこの家を守ってきた房江は少なからぬ打撃を受けた。 慎は苦笑するしかなかった。当たり前だ、我々は家庭づくりを怠った。息子の言い分は当たっている。 若い夫婦は房江が一時暮らしていた奥多摩の家に新居を構えたが、結婚して一年ほど経った頃、ここに戻りたいと言ってきた。一旦放逐した家へ戻り、ここを継ぐと宣言した。 自分勝手に出ておいて、戻るとは。我が儘放題も過ぎるように見えてそうではない。 政は私よりはるかに自分の人生と求められる役所を心得ている。 お前たちみたいにはならないと息子が放つ両親へのメッセージだ。石つぶてのように慎を打ち付ける。 私は正しいことをした。 政をこの世に送り出した。 私は誤ったことをした。 妻子がいるのに他の女に心を寄せた。 ひとりの女すら幸せにできず、ふたりとも不幸にした。 子供たちに真っ当な家庭を味合わせることもなく、信じろと言い続けてきた。 私は間違っていたのか? 疲れた。 日に日に弱る女を見舞い、自分の家と女の家、職場を往来する日々に。 しかし疲れたと口にすることは許されない。 私はぶれてはいけない。強くならなくては。常に前を見ていなければならない。 どうせ、あと少しの辛抱さ。 茉莉花はもう助からないのだから。 何という苦しみだ!!
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