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「ばかを言っちゃいけない、君は我が家の大切な家族だ」
「ありがとうございます」加奈江はぺこりと会釈する。
「なら、そ彼の方のことも考えたいと思ったのです」
慎は改めて加奈江の正面に立った。
「君と話すのは大学に在学していた頃以来かな」
「そういえばそうですね」彼女はにっこりと笑う。
「あの時、とても心に染みることを仰って下さいました」
「そうだったか」
「はい。指導教官だった武先生にへこまされてましたから、少し救われました」
「彼はいつも思いつきで言いたいことを口にしてすぐ忘れる。気にすることはない」
「そうですよね、でも最近になってからです、あの態度に意味は大してなかったと思えるようになったのは」
二人は思い出し笑いをするように吹き出した。
息子は、何と得がたい人を妻としたことか。
年若い学生同士の結婚話をされた当初、房江は恐慌を来し、加奈江に辛く当たった。若者たちには辛いことだったろう。しかし、政と加奈江はしっかりと結び付き合っている。
彼らを繋ぐものは何か。
愛と信頼? 思いやり?
考えつく限りの優しい感情を共に慈しみあえる男と女に幸せは宿るというのか。
感謝の言葉もない。
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