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「あ」
小さな悲鳴と共に、一冊の本が天板から落ちた。
樹木のように巨大な本棚の間を、ページの真ん中を開かれている部分が空気抵抗によって減速されながら、ゆったりと下降していく。
その様を、フィリアは魅入られたようにじっと見つめていた。
白い鳥が翼を広げて降り立とうとしているようにも見えるその姿が、フィリアにまるで、時間の流れがスローモーションになってしまったかのような錯覚を起こさせた。
十メートル近い高さから落ちたにも関わらず、その本はほとんど音という音もたせずに石床に到達した。
優雅に、冷然と。
それはまるで、魔法のように。
三階建ての建物にも至る高さの、巨大な本棚。
その頂きから見える、同じようなたくさんの本棚との僅かな通路に佇むその本は、今度は白い折鶴のように見えた。
折り目が首で、表紙が翼のように。
その様子を、本棚に立てかけてある大梯子の上から呆けたように見つめていたフィリアは――しばらくしてからハッ、と気づいたように顔を上げて、慌てて梯子を降り始めた。
その本を、回収するために。
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