魔導書

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 乱れた息を整えて、 「先生ーっ、見つかりましたよ!」  樫作りの扉を跳ね開けた途端、フィリアの視界一杯にもうもうと埃が舞い上がった。  むせて、あわてて口元を押さえる。  目を閉じ手で払ってからその瞳を半分だけ開き、フィリアは中の様子を確認した。  暗い部屋だ。  小学校の理科準備室ていどの広さだが、明かりが、真ん中の丸机に蝋燭が一本あるだけ。  窓も閉められカーテンもとじられているから、まるで時代劇の夜のシーンのような様相を呈している。  闇の中には浮かび上がるように、様々なものが見て取れた。  窓際すべてに設置されたサイドテーブルの上には、紫や青色といった強烈な色の液体を湛えたビーカーや、ホルマリン漬けの動物の内臓が所狭しと並べられている。  壁際にそびえる五つの本棚には大量の本が詰め込まれている。  そのすべては微動だにすることなく重々しく佇み、夏至も近い今日この頃だというのに、そこには妙に冷たい空気が流れていた。
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