斎藤ユキにまかせなさい!

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斎藤ユキはうんざりした表情で会見をする人を見ていた。彼女の綺麗に染められた金髪は、彼女の顔を外国人のみたいに映しだす。しかし、その顔は今、不快な表情に歪んでいる。 広い記者会見場で制服姿の彼女は眼鏡をかけて、カメラに映らないように記者と同じ姿勢で体を椅子に任せている。  朝早くから行われている企業の謝罪会見が、彼女の眼鏡越しに映っていた。責任者であろう男性が頭を下げながら謝罪の言葉を述べる。しかし、その言葉とは裏腹な字幕が眼鏡のガラスには書いてあった。勿論、実際に存在している字幕ではない。 ユキには特別な力があった。それは彼女がガラス越しに人を見ると、必ずその人の心が見られるようになっていた。  その能力に気が付いたのは、中学生の頃だった。最初は窓に映し出されるクラスメイトの歪んだ像を眺めていて。彼らが話すたびガラスに文字が浮ぶ。その文字を繰り返し見るうちに文字は鮮明になり、最終的にはガラス越しでもはっきりと読めるようになっていた。 最初はそれに驚いていたものの、その文字が実際にその人の心情だと知ると、次第に落胆することが増える。それでもユキは、不屈さと斜め上に向く前向きさがあった。それが自分に与えられた能力なのだと信じるようになる。そこで落胆するよりも、人を信じるために軽い気持ちで探偵をするようになった。  女子高生探偵になりはじめた時には依頼する人も少ないのだが。SNS等で宣伝をするうちに、安くしかも精度の高い彼女の探偵能力に今では知る人ぞ知る探偵として有名になっていた。 なかでは警察での極秘な調査を行ったことが一度あり、それは今でもユキの誇りであった。 とは言っても通常の依頼となると浮気調査か中小企業などの素行調査が殆どだ。ドラマのような展開を望む彼女にとっては暇な日々が流れる。  記者会見の依頼を終えたユキは大きく伸びをすると、制服姿のままで会見場を後にした。 「今日は他に依頼がないかなぁ」 ユキが独り言を吐きながら携帯を開く。依頼主に報告をしている途中で1つだけ新着メッセージが届いていた。 メールを開く。そこに書かれていたのは企業からの依頼だった。 相手はプログラミング会社の神崎と名乗る会社の人事部にいる社員らしい。依頼内容は面接を受けに来た人の素行調査だという。
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