2人が本棚に入れています
本棚に追加
野次馬はさらに増え、好奇の視線が増えるその中には、スマートフォンやカメラで撮影を始める者までいた。それでいい。広く知り渡れば隠蔽は不可能なものになる。
びゅうと風が吹き抜ける。野次馬は充分な数になった。もう良いだろう。耐える時間はおしまいだ。手を真っ直ぐに背筋を伸ばして頭から落ちるように、一歩足を踏み出す。その時だった。
少女は踏み出そうとした足をピタリと止める。死が怖くなったからか、そうではない。疑問を投げかける声が聞こえたのだ。
――どうして死ぬの?
どこから聞こえてきたのかは分からない。けれどもこの喧騒が遠退いたかのように、やけにハッキリと聞こえてきて思わず足をとめてしまった。
なぜ死ぬか。言うまでもない。ここが地獄だからだ。救いの手すら跳ね除けられる。生き続ける限り拷問が続くからだ。それならばいっそ楽になってしまいたい。だから死ぬのだ。
――独りだから、苦しいから死ぬの?
言わずもがな。人は孤独に耐えられるようにはできていない。孤独が平気と思っているやつは本当の孤独を知らないだけだ。
ふと、脳裏をよぎる。楽しかった頃の記憶。まだ、母親がいて。父親も笑っていて。少女もまた笑っていた。他者から愛されていた時がどれほど幸せであったか。
――そうか。つまり愛が欲しいのか。
最初のコメントを投稿しよう!