愛される力

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 野次馬はさらに増え、好奇の視線が増えるその中には、スマートフォンやカメラで撮影を始める者までいた。それでいい。広く知り渡れば隠蔽は不可能なものになる。  びゅうと風が吹き抜ける。野次馬は充分な数になった。もう良いだろう。耐える時間はおしまいだ。手を真っ直ぐに背筋を伸ばして頭から落ちるように、一歩足を踏み出す。その時だった。  少女は踏み出そうとした足をピタリと止める。死が怖くなったからか、そうではない。疑問を投げかける声が聞こえたのだ。 ――どうして死ぬの?  どこから聞こえてきたのかは分からない。けれどもこの喧騒が遠退いたかのように、やけにハッキリと聞こえてきて思わず足をとめてしまった。  なぜ死ぬか。言うまでもない。ここが地獄だからだ。救いの手すら跳ね除けられる。生き続ける限り拷問が続くからだ。それならばいっそ楽になってしまいたい。だから死ぬのだ。 ――独りだから、苦しいから死ぬの?  言わずもがな。人は孤独に耐えられるようにはできていない。孤独が平気と思っているやつは本当の孤独を知らないだけだ。  ふと、脳裏をよぎる。楽しかった頃の記憶。まだ、母親がいて。父親も笑っていて。少女もまた笑っていた。他者から愛されていた時がどれほど幸せであったか。 ――そうか。つまり愛が欲しいのか。
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