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「やめっ……!」
少女は腕を振り解こうと暴れた。自分の代わりに死なれるなど目覚めが悪いにもほどがある。楽になるために死を選んだのに、これ以上生かされて余計なものまで背負わされてたまるか。
だが、当然のことながら成人男性の全力のホールドを、激しい部活動をしているならまだしも、不健康体の少女が振り解けるはずもない。
少女が抵抗を諦めると同時に抱きしめる腕にさらに力が入った。感触からして接地が近いのだろう。少女はぎゅっと瞳を閉じる。
そうして訪れる接地の瞬間。しかしその威力は思っていたよりも遥かに小さく、二人の身体が跳ねるほどに弾力に富んでいた。
上がる歓声。温かな腕の中で少女は呆然とする。生きている。いや、生かされた。そんなことを考える頭に生温かいため息がかかる。「良かった。助けられた」と言葉を添えて。
腕が解かれて、警官が離れる。少女はその場に座り直して辺りを見回した。
どうやら少女たちが落ちたのは陸上で使うマットを重ねたもののようだ。野次馬が慌ただしく動いていたのはこれを用意するためだったのだ。それが意味するのは野次馬が少女を助けようとしたということ。
初めて受ける視線だった。誰しもがその顔に安堵を浮かべている。中には涙を浮かべる者もいる。生きていて良かったと、生きることを肯定する視線だった。
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