プロローグ

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 ツンと鼻をつく糞尿と芳香剤の入り混じったにおいが漂うトイレの個室。一番奥の個室で、蓋をした白い洋式の便座の上に座り、少女は一人、弁当箱をつついていた。  朝早くに起きて焼いた自信作の卵焼きを箸で運んで咀嚼する。常人ならば食欲など湧かない環境も、彼女にとっては自宅の食卓とそう変わらない。狭くとも、臭くとも、汚くとも、一人で居られるのなら彼女にとっては最高の環境であった。  トッ、トトッ、トッ、と足音が聞こえた。複数人がトイレにやって来たのだ。彼女は一旦箸を止めて息を潜めた。バレたら何をされるか分からないから。  息を潜めてからしばらくして、ガタッと大きな音がした。誰かが個室に入ったわけではなさそうだ。続いて水が流れる音がした。化粧でも直しに来たのだろうか。シンと静まり返った空間に水の流れる音はやけに響いて聞こえる。  そうして数分が過ぎて水が止まった。やっと静かになる、そう思った矢先に隣の個室に人の入る音がした。  ガタッ、ガタッとやけに騒がしく。時折噛み殺したような笑いが聞こえてきた。  やがて一際大きくガタッと音がなると、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになる。  ふいに上から感じた気配に気づいて顔を上げる。歪んだ笑顔と青いバケツ。気づいた時には手遅れだった。
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