プロローグ

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 バシャアンと水が叩きつけられる音がして。その中にいた少女は呆然とする。水を打ったような静けさなんて比喩ではなくて、水を打たれて静かになった。  戸惑う彼女を置き去りにして、甲高い大きな笑い声がトイレに響く。 「大っ成っ功ぅ!」  喜びに満ちたその言葉を聞いて、彼女はようやく理解する。いつもの虐めがついにこの場所まで来たのか、と。  落としてしまった箸と中身の散乱した弁当箱を拾おうと背中を折る。そうして屈めて低くなった水の滴る黒い頭に、ファサッと何かが被さった。  箸を弁当箱に入れて、頭に手を伸ばす。掴んだものは真っ白で綺麗なタオル、ではなくて。黒くくすんだ汚らしい、不快なにおいを放つ雑巾だった。 「それで頭と床、拭いてねぇ」  誰かが言った一言にクスクスと笑いを残して足音は去っていく。  呆然と少女は佇む。今までされた虐めは教科書の落書きや上履きに画鋲、体操服の紛失などとあくまで教師に気づかれない水面下の虐めであった。  しかし今回の虐めは今までとは違う、表面的で強烈なものだ。これが示唆するのは今後の虐めがエスカレートする可能性。どこまでが周りと少女に許容され、どこからが罰せられるか。この姿を教師が見る、あるいは彼女が教師に告げ口する、そうして罰せられないギリギリを見極めるための虐め。
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