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「これからはちゃんとやるんだぞ。今日は出前を取る。風呂を沸かしてこい」
そう締めくくって男は手を止めた。口の痛みで話せない少女はこくこくと頷いて返す。男は満足気な顔で立ち上がり、乱れたシャツの襟を直して離れて行った。
涙はもう枯れていた。少女は立ち上がると風呂場へと向かった。
風呂に湯を溜めつつ、かき回す。温度が均一でなければまた殴られる。
ふと、風呂場の鏡を見る。熟れた果実のように両頬が染まっていた。そっと触ると叫び声をあげそうになり、ぎゅっと唇を噛んで殺した。
風呂を沸かし終えてリビングに戻ると丼を二つ机に乗せて父親が待っていた。
「さあ、食べなさい」
親子丼。皮肉なものだ。席に座って箸を持ち、口に運ぶ。走る激痛に少女は箸を落としてしまう。ヒッと怯える少女に、男はまた手を振り上げた。
頬の痛みに耐えながら食事を終えて、父親の後に風呂へと入る。そこでまた頬の痛みに耐えながら頭と身体を洗った。
風呂を出たあとは父親の布団を敷いてから自分の布団を敷いて眠りにつく。
痛みがいつまでも、いつまでも収まらず。少女がようやく眠れたのは朝も近い時間だった。
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