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さして大きくもない近所の神社だったが、それでも元旦ともなれば、そこそこの人出だ。
順番に拝殿までたどり着く。
――弟には悪いが、おれは先に幸せになる。
美穂の笑顔を見て、敬一はふと思った。
まさか、とは思うが、おれも催眠術にかけられていて、「美穂」という幻の恋人をつかまされてるんじゃないだろうな……。
美穂は出来すぎるほど非の打ちどころのない、いい女性だった。少し非現実的なぐらい。今日だって晴れ着を着てきている。こんないい女がおれの恋人でいる……。ちょっと都合が良すぎないか?
――いいや、幻なんかであるものか。
敬一は一瞬不安を覚えたが、すぐにそれを振り払うように賽銭箱の前で力強く柏手を打った。
【エアな奈々子】(了)
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