先野光介が動く

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 他の探偵のサブに回ることが多い先野は、メインの仕事で、しかも今回は少し他の依頼と違うということで、俄然やる気が出てきた。 「大船に乗ったつもりで」  そういう大袈裟な言いようが、かえって不安がらせるとも思わず。  先野は街へと出て行った。  身元調査はよくある依頼だった。  ただ、兄が弟の交際相手を心配する例というのは珍しかった。興信所へ調査してもらうとなるとそれなりに費用が発生する。それを払ってもなお知る必要があるというのは余程のことだ。暮らしに余裕があるというのも、あるだろうが、それはそうと──。  先野はとりわけ、依頼者が出したプリクラ写真に注目した。そこには一人でにこやかに微笑む男の顔が映っていた。依頼者の弟の所田明二(ところだあきじ)である。  普通、男が一人でプリクラ写真を撮ることはない。しかも左側によっていて、右には空間があるのである。それはまるで隣に透明人間がいるかのよう。それだけではなく、フレームにハートマークがデコレーションしてあり、どう考えてもカップルで写っている様相なのである。本来写っているべきはずの女――奈々子というこの男の交際相手はいったいどんな女なのか、仕事抜きで興味がわいてきた。
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