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先野は五十メートルほど距離をとってターゲットを追う。今日は事務所にいるようなスタイルではなく地味な服装だった。カジュアルな中年オヤジを演じている。いくら気に入っていても白一色のあの格好では二百メートル先からでも目立ってしまうのがわからないほど分別なしではなかった。
一方、こちらも目立たない薄い色のコートを着ている三条は、先野とはまったく違う方向へ行く。二人して歩いていては怪しまれてしまうからである。やがて方向転換し、先野の三十メートル後方を歩く。
先野は肩からかけた鞄の中に隠したビデオカメラの動作をさりげなく確認した。鞄にあけた小さな穴からターゲットをずっと撮影し続けるのである。いつどこで誰に会うかわからない。とっさに証拠を撮れないでは、仕事にならない。
地元の人が利用する人通りの多い十二月の商店街を通り、所田明二は最寄り駅についた。
大きな駅ではない。昭和時代に建てられた古びた木造駅舎がいい味を出していて、自動改札機が目をむいたかのように真新しかった。
ターゲットがICカードで自動改札機を通った。先野、三条とも、あらかじめ用意しておいたICカードであとに続く。ホームに上がっても、三条は先野に近づくことなく、それどころか先野を見もしない。無関係を装い、一般の利用客にまぎれる。
ホームには電車を待つ乗客が二十人ほどいた。日曜日ということもあって、いろんな年齢の人がいる。母親に連れられた子供はお菓子を食べ、老人のグループはベンチにすわり、大学生らしき若者はスマホをいじっている。そのなかに明二は混じって所在なげに立っている。
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