先野、真相に迫る

2/10
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 先野光介は、所田明二の一日の経過を依頼者に電話で報告し、次の機会を待つことになった。また日曜日に出かける予定だと、依頼者は情報をくれた。  その間、先野は他の探偵のサブとして、ペット探しや浮気調査を手伝った。ネットで調べものをしたりもしたが、そんな業務の間にも、奈々子という謎の恋人の正体について、あれこれと考えを巡らせていた。その仮定をもとに、次のデートで真相に迫ろうと思った。  そして日曜日、先週と同じく三条とでアパートを張った。 「今日は彼女、現れますかね……?」  三条は小声で話しかけた。先週とは違う服装で。こういった〝仕事用〟の服は、事務所に備品として揃えられていた。 「現れるだろう。先週すっぽかして、今回も、なんてことがあろうはずがない」  先野はそう言いつつも、しかしへんな胸騒ぎがしていた。この一週間、先日、隠し撮りした所田明二のビデオ画像を繰り返し見ていた。そこで気になっていたことがあったのだ。  それは「所田明二には恋人なんかいないのではないか」という可能性だった。  奈々子という女が実在するかどうかはべつとして(たとえばグラビアアイドルだったり、あるいはゲームのキャラクターだったりするかもしれない)、恋人を仮想しているのかもしれないと思ったのである。恋人がいるつもりになっている、というわけだ。それにしては行動が本格的すぎるが、ありえないとも言い切れない。つまり、エア恋人だ。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!