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間口の狭い一軒家や背の低いマンションが建ち並ぶ一画に、明二の住むアパートはあった。築何十年もたっていそうなカビ臭い古びた二階建てアパートだった。いくつかの部屋のドアには電力会社の札が下がっていて、どうやら空き部屋が多いようである。
明二がなんの仕事をしているのか、敬一は知らない。しかしいくら貧乏でも、よくこんなところに住んでいるな、と敬一は明二を不憫に思ったが、いくら同居を進めても弟はうんと言わなかった。
二階にあがると、敬一は通路に並ぶドアの表札を一つずつ確認し、明二の部屋の前に至る。塗装のはがれた木製の玄関ドアの横に取り付けられた呼び鈴を押すと、気の抜けたようなブザーが鳴った。
すぐに明二は顔を出した。
「よ、元気そうだな」
土曜日の夕方だし、弟とはいえ、手ぶらで顔を見せるのも愛想がなさすぎると、敬一はコンビニで缶ビールとパック寿司を買っていた。
「差し入れだ」
「ありがとう、兄ちゃん。ま、入ってくれ」
半畳ほどの玄関で靴を脱ぐと、2DKの狭いアパートの一室がほぼ見渡せた。
一人暮らし用の小さな座卓が一つ置かれた部屋に敬一は上がり込んだ。そしてちょっとばかし不審に感じた。
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