奈々子

11/11
前へ
/41ページ
次へ
「弟さんには、本当のことを話すんですか?」  先野はつい訊いてしまう。聞かなくてもいいことなのだが心が納得しなかった。 「いえ、いつか振られるとわかってるんですから、今のまま幸せでいてもらったほうがいいかもしれない。もし事実を知ったら、どんなにがっかりするか……」  依頼者は言った。弟思いのいい兄貴である。 「真実とは、時に人を傷つける、残酷なものですな……」  先野はどこかで聞いたようなセリフを吐いた。本当のことを打ち明けたほうがいいのかどうか、先野自身、よくわからなかった。  もしおれがターゲットの立場ならどちらを望むだろう、と想像した。道化を演じていたと知れば、余計に落ち込むような気もするし、「紹介センターを訴える!」などと怒髪天を衝くかもしれない。  しかしそれにしても、モテない男というのも、辛いものである。  先野はそう思った。先野もモテなかったが。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加