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「弟さんには、本当のことを話すんですか?」
先野はつい訊いてしまう。聞かなくてもいいことなのだが心が納得しなかった。
「いえ、いつか振られるとわかってるんですから、今のまま幸せでいてもらったほうがいいかもしれない。もし事実を知ったら、どんなにがっかりするか……」
依頼者は言った。弟思いのいい兄貴である。
「真実とは、時に人を傷つける、残酷なものですな……」
先野はどこかで聞いたようなセリフを吐いた。本当のことを打ち明けたほうがいいのかどうか、先野自身、よくわからなかった。
もしおれがターゲットの立場ならどちらを望むだろう、と想像した。道化を演じていたと知れば、余計に落ち込むような気もするし、「紹介センターを訴える!」などと怒髪天を衝くかもしれない。
しかしそれにしても、モテない男というのも、辛いものである。
先野はそう思った。先野もモテなかったが。
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