エピローグ

2/3
前へ
/41ページ
次へ
「そうだったの……」  所田敬一がすべてを話し終えると、美穂はそう言った。 「弟さん、可哀想ね……」 「まったくだ。だがいつか本物の恋人が見つかるだろうさ、おれと同じようにな」  年が明けて、元旦。  初詣に来ていた。  美穂は、一年ほど前から敬一が付き合っている相手だった。敬一も弟の明二と同じように女に縁がなかったのだが、今はこうして恋人がいた。交際は順調で、そろそろ結婚を考えてもいた。 「そうですよ。敬一さんの弟さんですもん」  今の弟は惨めすぎる。本人が気づいていないのが一層悲劇的だった。弟自身は、幸せな毎日を送っていることだろう。だがそれは夢に過ぎない。夢はいつか醒めるものだ。そしておそらく、あと少しで夢から醒めるのだろう。だが、単に振られただけだと弟は思い込み、最後まで騙されていたとは感じまい。願わくば、その後におれのように素晴らしい出会いがありますように――。  美穂は理想的な恋人だ。なにも申し分ない。この女性(ひと)なら、両親に紹介してもいい印象をもってもらえるだろう。  年もあけ、いよいよそれを伝えようかと思っていた。  神社の境内はにぎわっていた。 「混雑しているわね」 「正月だものな」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加