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「そうだったの……」
所田敬一がすべてを話し終えると、美穂はそう言った。
「弟さん、可哀想ね……」
「まったくだ。だがいつか本物の恋人が見つかるだろうさ、おれと同じようにな」
年が明けて、元旦。
初詣に来ていた。
美穂は、一年ほど前から敬一が付き合っている相手だった。敬一も弟の明二と同じように女に縁がなかったのだが、今はこうして恋人がいた。交際は順調で、そろそろ結婚を考えてもいた。
「そうですよ。敬一さんの弟さんですもん」
今の弟は惨めすぎる。本人が気づいていないのが一層悲劇的だった。弟自身は、幸せな毎日を送っていることだろう。だがそれは夢に過ぎない。夢はいつか醒めるものだ。そしておそらく、あと少しで夢から醒めるのだろう。だが、単に振られただけだと弟は思い込み、最後まで騙されていたとは感じまい。願わくば、その後におれのように素晴らしい出会いがありますように――。
美穂は理想的な恋人だ。なにも申し分ない。この女性なら、両親に紹介してもいい印象をもってもらえるだろう。
年もあけ、いよいよそれを伝えようかと思っていた。
神社の境内はにぎわっていた。
「混雑しているわね」
「正月だものな」
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