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「お待たせしました。今回の調査担当となります、先野光介と申します」
名刺を差し出して、一礼する。
「そうですか……」
名刺を受取った依頼者は、先野を見返した。なんとなく不審な表情をして。
真っ白な上下のスーツと、紫のシャツに赤いネクタイで、ソフト帽。それが先野のトレードマークで、事務所ではこの格好で通していた。服装は自由だったから、それを誰かにどうこう言われる筋合いではないが、依頼者の印象まで計算せず、わが道を通す先野光介は、ときどき依頼者から不審がられたり驚かれたり、ひどい場合は依頼せずに帰ってしまわれることもあったが、本人はそんな「余計な混乱」を招こうとも平気であった。棄てられないこだわりがどこから来るのかは誰にも語ったことはない。
「所田です」
と、依頼者は名乗り、
「今日はよろしくお願いします」
所田敬一は丁寧にお辞儀した。
「では、さっそくですが、どのようなご用件かをお聞かせ願えませんか」
依頼内容については事前に概要は聞いていたが、仔細を聞くべく先野はシステム手帳を開いた。
──弟の交際相手について調べてほしい。
ということであったが、実在しているのかどうか、という奇妙なことを最初に言うのである。
話を聞いて、先野は、なるほど、とうなずく。
「なにか事情がありそうですね。わかりました。弟さんの交際相手がどんな人なのか、きっちり調べてきますよ」
ニッと笑った。歯並びが悪かった。
「だいじょうぶでしょうか……」
所田敬一の目が不安に泳いでいた。
「もちろんです」
システム手帳をパタンと閉じ、先野は胸をはる。
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