此処は地獄

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月明かりにより、何とか視界が開かれる。 これが曇天であったなら、月光の導き無しでは進む事すらままならなかっただろう。 少年の足音を感じたのか、這いつくばっていた人間が足首を掴んだ。 「う、ぁああ……」 呻き声だけが静まり返った地に響いた。 少年の進む足が止まる。 ここ、オルセ・ゲヘナでは死体が捨てられているなど当たり前。 少年はそれ以上の興味を示さなかった。 それよりも少年にはやるべき事があった。 「お母さん、どこにいるの?」 彼は母とはぐれていた。 物心付いた時には既に父親は居らず、この地獄で母親と二人きりで生き抜いた。 彼が見つめる先には、若い女の死体があった。 両目をくり貫かれ、四肢が全て切断された死体。 衣服は身に付けておらず、乳房は切り取られている。 開かれた白い腹からは、明らかに臓器が欠如しているのが分かる。 凌辱の限りを尽くされたのだろうか、美しかったであろうその女の顔は、屈辱の色に染まったまま硬直していた。 それを見たまま、少年は固まった。 それは母親だった。
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