155人が本棚に入れています
本棚に追加
全て吐いた。
もはや胃液すら出てこなくなった。
それからどれだけの時間がたったのか分からない。
何の前触れも無く、少年の前に、一人の女が現れた。
「貴方は大切な方を失ったのですか?」
頷く力も無い。
だが、その神々しいまでの存在感を放つ美女は、彼を釘付けにした。
同じ人間でも存在が違う。
自分とこの美女では越えられぬ壁があった。
暖かい包容力。
それは絶望の淵にあった少年の心を救う。
彼をまた、日の当たる世界へと連れ出してくれる、そう思われた。
だが、その全ては否定される。
彼は見付けてしまった。
この美し過ぎる美女の違和感を。
「どうかしましたか?私に貴方を救う手助けをさせて下さいませんか?」
美しいく、暖かく、穢れの無い心。
彼女は己を聖女と名乗った。
その完璧な存在が救いの手を差し伸べている。
断る理由なんて無かった。
その一点さえ無ければ。
そう、その──────。
(どうしてお姉さんは、僕のお母さんと同じ目玉を持ってるの?)
その言葉は発せられなかった。
既に少年には、言葉を発する力は残されていなかった。
(どうして、どうして、どうして、どうして……!どうして僕のお母さんの目玉で僕を見つめるの!?何故あなたが、僕のお母さんの目玉を持っているのさ!!)
感情すら表す力が残されていなかった。
そのまま、視界は闇に包まれていく。
少年は意識を失う間際、聖女が立ち去って行くのを見た。
その瞳は紛れも無い、母親のモノだった。
最初のコメントを投稿しよう!