此処は地獄

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全て吐いた。 もはや胃液すら出てこなくなった。 それからどれだけの時間がたったのか分からない。 何の前触れも無く、少年の前に、一人の女が現れた。 「貴方は大切な方を失ったのですか?」 頷く力も無い。 だが、その神々しいまでの存在感を放つ美女は、彼を釘付けにした。 同じ人間でも存在が違う。 自分とこの美女では越えられぬ壁があった。 暖かい包容力。 それは絶望の淵にあった少年の心を救う。 彼をまた、日の当たる世界へと連れ出してくれる、そう思われた。 だが、その全ては否定される。 彼は見付けてしまった。 この美し過ぎる美女の違和感を。   「どうかしましたか?私に貴方を救う手助けをさせて下さいませんか?」 美しいく、暖かく、穢れの無い心。 彼女は己を聖女と名乗った。 その完璧な存在が救いの手を差し伸べている。 断る理由なんて無かった。 その一点さえ無ければ。 そう、その──────。   (どうしてお姉さんは、僕のお母さんと同じ目玉を持ってるの?) その言葉は発せられなかった。 既に少年には、言葉を発する力は残されていなかった。   (どうして、どうして、どうして、どうして……!どうして僕のお母さんの目玉で僕を見つめるの!?何故あなたが、僕のお母さんの目玉を持っているのさ!!) 感情すら表す力が残されていなかった。 そのまま、視界は闇に包まれていく。 少年は意識を失う間際、聖女が立ち去って行くのを見た。 その瞳は紛れも無い、母親のモノだった。
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