about‐face ~ここから~

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レックスは、自宅も兼ねているバー『カオス』へと2人を案内した。 店内は殺伐としていたが、カウンターテーブルの上に飾られた日本のカスミソウに似たピンク色の花々が目を惹いた。 2人をカウンター席に座らせると、レックスは奥のドアを開けて誰かに声をかけた。 いや、『声を』かけた訳ではない。 手話だった。 レックスはドアの向こうの誰かに手話で語りかけたのだ。 1人の女性の肩を抱いたレックスがこちらを向いた。 女性は大きなお腹に両手を添えながら真っ直ぐに沙蘭を見て、満面の笑みを浮かべた。 しかし、それはたちまち泣き顔に変わってゆく。 『リズ!』 沙蘭がその女性、リズに駆け寄る。 2人はせわしなく両手で会話し、抱き合って泣き、笑い、また手を動かして抱き合った。 レックスはそんな2人の会話の内容が解っているのか、優しい表情で彼女達を見ていたが、簡単な手話しか解らない大和には2人が喜び合っている、という事ぐらいしか想像できない。 『レックス。 俺、挨拶程度しか解らないんだ。 2人は何て言ってんの?』 『ん? いや、俺も初心者だからな。 あの速さにはついて行けねぇよ。 だから部分的にしか解らねぇけど、この6年間の事を知らせ合ってるみたいだな。 2人とも、苦労は人一倍してきてるから』 『おまえの子ども?』 大和がリズのお腹を見て言った。 『うん。 来月生まれる。 リズは聾学校で絵を教えてるんだけど、今月から産休を取ってるんだ』 『そっか。 彼女、夢を叶えたんだな』 『ん?』 『サラに聞いてたんだ。 将来、自分と同じような子ども達に絵を教えたい、って』 『リズもよく言ってたよ。 サラはきっと凄いミュージシャンになるって。 聴こえないのに何で解る?って聞いたら、彼女が歌うと空気が震えるって言うんだ。 それが心地良い波になって私の体を包んでくれるの、ってな。 サラの歌の上手さは認めるが空気の震えなんて俺には解らねぇ。 恐らくリズ独特の感性だろうな』
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