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イントロからAメロ――
彼女が視線を上げた。
そして、カメラを見つめて微笑んだ。
右手で青く広がる空を描く。
『空、青いね。
見える?』
「あれは?
沙蘭は何を…?」
モニターを見つめていた野村が呟いた。
「手話だよ。
空が青いね、見える?って言ったんだ」
『私はいつも1人でした。
悲しかった。
寂しかった。
でも、言ってはいけなかった…』
「私はいつも1人…、あ~、ダメだ。
俺、簡単なのしか解らない」
大和が悔しがる。
するとその時、
「私はいつも1人でした。
悲しかった。
寂しかった、
でも、言ってはいけなかった」
通訳したのは亜季。
亜季には、3年前に亡くなったが、ろう者だった伯母がいた。
『私は、生きている事を後悔してた。
生きている事は罪だと思ってた。
自分の存在の意味が解らなくて。
苦しくて。
でも生きてしまったから。
これは私が受けるべき罰なんだと思ってた』
『でも、みんなに逢って。
1人じゃないと知って。
幸せでした。
私が生きていることを喜んでくれる人に逢えて。
とても幸せでした。
こんな私でも、生きていていいんだと。
みんなと出逢う為に、みんなと笑う為に生きてきたんだと…』
『ありがとう、をたくさん言いたいです。
みんなの事が大好きって、たくさん言いたいです。これからもずっと。
ずっとずっと言い続けたいです』
指先から紡ぎ出される、音の無い言葉が見えない音階を重ねていく。
間奏――
誰1人、モニターから目を逸らす者はいなかった。
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