第1章

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「柚乃の母親は柚乃を産んで間もなく亡くなりました もともと体が弱かったので無理が祟ったようです 私は両親を早くに亡くして兄弟もいませんので 子育ては全く経験もなく聞く相手もいませんでした 育児書を見ながらなんとかここまできましたが 他の子と比べると出来ない事も多いようで 柚乃には申し訳なく思ってます」 「柚乃ちゃんは本当にいい子に育ってますよ… 自信を持ってください…」 「ありがとうございます…そう言ってもらえると…」 そう言いながら柚乃ちゃんの頭を撫でている 「いろいろ事情もあったので妻が亡くなって 柚乃をひとりで育て始めた頃…いろいろ噂されました そんな時、杜崎先生は心配して声を掛けてくださったんです 子育てしながら仕事をするなら このマンションを使いなさいって… ここなら事務所からも近いし隣に保育所もあるからって」 「ありますね、保育所…」 「当時、事務所から車で30分程の所に住んでたので ありがたかったです… それからも何かと気に掛けてくださいます」 「おじさんてそんな人だったんだ… いつもふざけてばかりだから…」 「明るい方です…その明るさに何度も助けられました」 「私の母の兄なんですけど… 小さい頃母子家庭で育ったんで 苦労がわかるんでしょうね」 「そうおっしゃってました… 柚乃と自分がだぶるって…」 「長坂さん、これも何かのご縁です… 私にもお手伝いさせてください… 柚乃ちゃんとも仲良くなれた事ですし…」 「年頃のお嬢さんの迷惑になります… 私はもうすぐ40の訳ありの子持ちです 変な噂が立ったら杜崎先生にも叱られます」 「私が気にしませんから大丈夫ですよ」 「フッ…あなたは妻に似ている… 真っ直ぐなところとか… 困ってる人を放っておけないところが… すみません…亡くなった人間に似てるなんて…」 「いいえ…私の母は私がお腹の中にいた時 いろんな人に支えられて 私を産んで育てられたと言っています いまの父もそのひとりだったそうです… 私も誰かの支えになれたらって思ってます 柚乃ちゃんの体調も心配なので せめてそれだけでも…」 「お願いします…でも仕事やあなたの生活に 支障をきたさない程度に…」 「もちろん…良かった… 柚乃ちゃん、仲良くしよーね」 「はーい!」 「柚乃…うれしそうだな…」
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