第11章

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幸せに暮らしてたみたいだけど 彼が通勤で満員電車に乗ってた時 痴漢に間違われて警察に突き出されてしまって… 彼女が言うには絶対そんな事をする人じゃない 間違ってもする人じゃないって言い切ってて だけど、こういう事件は難しいんだ… 被害者がこの人か痴漢だって言い切って まわりは巻き込まれたくないから 助けてくれない しかも乗ってた車両に偶然警察官がいて 現行犯で連れて行かれてしまったから 彼は俺よりふたつ上で、美咲ちゃんを大事にしてるのが 何度かの接見でよくわかったよ… あんなに美咲ちゃんを愛してて大事にしてるのに 痴漢なんかするわけがないってわかったよ だけど…歳の離れた若い子を嫁にするくらいだから 有り得なくもないなって見られて… 被害者が俗に言う唆られるタイプの 20歳の大学生だったからさ… 俺も勝ち目がないと思ってしまって… 裁判の前に彼に聞かれたんだ 『先生…私はどうなるんでしょうか… 有罪になってしまったら…美咲は… 私は美咲を幸せにしたくて結婚しました だけど…夫が痴漢ってなったら… 会社だって続けられるかどうか… やっと、先月課長に昇進して 楽させてあげられると思ったのに… 美咲に辛い想いをさせてしまう あの子は優しい子だから 私を見捨てたりしないでしょう でも私にはそれが辛い… 先生…無罪になる可能性はありますか? 本当の事を言ってください… お願いします…』 俺は何て言えばいいのか迷った 普通、弁護士なら 『大丈夫、私を信じて任せてください』って 言うんだろうけど 俺は嘘は言えなかった… 『難しいと思います…』 そう言ってしまったんだ そして次の日の朝…彼は自殺をはかった 幸い一命は取り留めたけど… その何日か後に判決が出て やはり無罪にはならなかった 実刑にはならず罰金刑だったけど 彼はあまりにも重過ぎるものを 背負ってしまったんだ… 更に悪い事は重なり 自殺未遂の後遺症で彼の右手が思うように 動かなくなってしまって… その事もあって会社を辞めたんだ それがなくてもやめざるを得ない状況だった みたいなんだけどさ… 彼は身辺整理をして、美咲ちゃんに残せるものを まとめて…また…死を選んだんだ…
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