クリスマス・シフト

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「さっきの、ナイスさばき」 ようやく客足が減ってきて、久しぶりに接客が途切れた頃、そう言って私のレジ台の前に立ったのは、 レジ統括担当社員の、松浦さん。 この売場のレジ業務の責任者で、バイトのシフト管理なんかもしてる人だ。 「今日はどうしても、ああいう客が多いからなあ。 でも、『早くしろ』とは言えないし。 さっきの、莉花(りっか)みたいなやり方、うまいよな」 手ではビニール袋の口を四角に広げる作業をしながら、照れ臭くて目線を落とし「いえ…」と答えた。 ここは、デパートの地下食品売り場。 レジに並ぶ人の態度は、相場よりも高い金額を払っていることで大きくなる傾向にあるのか、スーパーなどのレジに比べて若干「お客様でござい」という雰囲気を醸し出している。 その為レジに入っているスタッフは石ころみたいなものらしく、どう思われるかなんてほとんど気にされていない。 「ありがとうございます。またどうぞお越し下さいませ」 そのお決まりの言葉はほとんど聞いてもらえることはなく、まるで自動再生音のような挨拶が客が立ち去った後に残される。 品物のカゴを受け取ってから、包装した荷物に変えて渡すまで、ほとんど虚ろな目で考え事をしている人も少なくない。 「店員」は「対等な人間」ではないから。 けれどもさっきのように、一言声を掛けると状況は変わる。 我に返る、というか、気付いた、というように。 目の前に立つのは自動で品物をさばくロボットではなく、人間だと言うことに。 そうすると、自然と言葉に耳を傾けてくれるようになることが多いのだ。 「まあ、なんだかんだ言って、莉花もベテランレジガールだからな。 あれくらいお手のものか」 「なんですかその恥ずかしい呼称…」 褒められたのは嬉しいけど、わざとらしくため息をついて照れ臭さをごまかした。 ベテランというのは、もっと平日や日中勤務しているフリーターさんに使うべき言葉だと思うんだけど。 まあそうは言っても、高校3年の冬からこのデパ地下に勤務しているし、全体の入れ替わりは結構激しいから、在籍日数からだけ言えば古株にはなるのかな。 もう3年はこの売場にバイトとしていることになる。 クリスマスから大晦日、年始にかけての年末商戦も、もう慣れっこだ。 あと30分もすれば、接客の合間にレジ締めの準備をはじめることになるだろう。
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