クリスマス・シフト

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あ、コレ… 冷たい空気の中、かすかにほわん、と香る匂い。 「どうしたんですか、これ」 目の前に現れたのは、 レジの向かいのデリのフライドチキン、2ブロック向こうのサラダ屋のミニオードブル、ななめ後ろの総菜屋のグラタンコロッケ、グロッサリーコーナーのチーズとクラッカー、リカーコーナーのシャンパン、そして通路むこうの洋菓子店の小さなブッシュ・ド・ノエル。 全部、うちの売り場の近くで売っているものだ。 「あー、うん… ちょっと漬物屋のトメさんに頼んで、代わりに買っといてもらって…」 歯切れ悪そうに答える松浦さん。 いやいや、そういうことを聞いたんじゃなく。 って、え? 漬物屋のおばちゃん? ツッコミたいのと意外な回答への驚きで、どういうリアクションを取ったらいいのか分からない。 結果私は、言葉を失いポカンと松浦さんを見上げた。 松浦さんは憮然とした表情のまま黙々と、器用にボトルを開栓すると、私が持ち上げたまま宙に浮いた紙コップに、シャンパンを注ぎ出した。 「莉花、もうハタチになったよな」 「あ、ハイ…なんとか…」 「ぶっ、何だよそれ、『なんとか』って」 あ、やっと笑った。 くっくっと笑いながら、松浦さんは自分の持つ紙コップにもシャンパンを注ぎ終わると、ボトルを脇に置いた。 紙コップを顔の高さまで持ち上げ、今度はふわりと笑う。 「んじゃ、メリークリスマス」 え…… 驚いた、その瞬間。
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