232人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
あ、コレ…
冷たい空気の中、かすかにほわん、と香る匂い。
「どうしたんですか、これ」
目の前に現れたのは、
レジの向かいのデリのフライドチキン、2ブロック向こうのサラダ屋のミニオードブル、ななめ後ろの総菜屋のグラタンコロッケ、グロッサリーコーナーのチーズとクラッカー、リカーコーナーのシャンパン、そして通路むこうの洋菓子店の小さなブッシュ・ド・ノエル。
全部、うちの売り場の近くで売っているものだ。
「あー、うん…
ちょっと漬物屋のトメさんに頼んで、代わりに買っといてもらって…」
歯切れ悪そうに答える松浦さん。
いやいや、そういうことを聞いたんじゃなく。
って、え?
漬物屋のおばちゃん?
ツッコミたいのと意外な回答への驚きで、どういうリアクションを取ったらいいのか分からない。
結果私は、言葉を失いポカンと松浦さんを見上げた。
松浦さんは憮然とした表情のまま黙々と、器用にボトルを開栓すると、私が持ち上げたまま宙に浮いた紙コップに、シャンパンを注ぎ出した。
「莉花、もうハタチになったよな」
「あ、ハイ…なんとか…」
「ぶっ、何だよそれ、『なんとか』って」
あ、やっと笑った。
くっくっと笑いながら、松浦さんは自分の持つ紙コップにもシャンパンを注ぎ終わると、ボトルを脇に置いた。
紙コップを顔の高さまで持ち上げ、今度はふわりと笑う。
「んじゃ、メリークリスマス」
え……
驚いた、その瞬間。
最初のコメントを投稿しよう!