クリスマス・シフト

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「お、始まった」 カチリ、という何かの作動音が聞こえ、松浦さんがつぶやいた後、 大音量の、オルゴール風音楽が流れ始め、時計のカラクリが動き始めた。 色とりどりのオモチャの音楽隊が奏でるのは、クリスマスにはベタすぎる、『ジングルベル』だ。 ベタだけど、普段は確かこの曲は流れなかったはず。 「21時が最後なんだ、この時報。 いっつも地下に潜ってるから知らなかっただろ? クリスマス限定バージョン」 うんうん、と何度も頷いて、それから手の中のシャンパンに視線を落とす。 「…一緒に、クリスマスを過ごしたかったんだ。 だから今日も莉花を遅番にした」 「え…」 キラキラと輝くカラクリ時計を眺めたままの彼の横顔が、若干照れているようにも見える。 「莉花とクリスマス勤務はもう3回目だし、ずっと一緒にいたのに何でだろうな… 急に思ったんだ。 莉花が先週出した、来月のシフト希望票見たらさ」 へ…? 何故急にシフトの話が? 私がポカンとしているのが分かったのか、松浦さんがこちらを見て苦笑する。 「お前、来月からぐっと勤務希望日減ってるだろ」 「あ…はい、就活が本格的に忙しくなりそうなので…」 松浦さんの言うとおり、出勤希望日は、これまでに比べて特に平日は半分くらいに減らしていた。 私の返事に、ゆっくり頷く松浦さん。 「うん、分かってる。 莉花はこれから将来を決める大事な時期に入って、やがては卒業して、就職する。 ここを辞める時が遠くないって事も。 分かってたんだけど、いざそれでシフト組んだらさ…」 松浦さんは一度そこで言葉を切ってら寂しそうに目を細めた。 「莉花が来ない日がたくさんあってさ、 顔見れない日が、こんなに続くんだ、いつかは居なくなるんだって思ったら、堪らなくなって…」 え…
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