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「恵(けい)ちゃん、恵ちゃん」
バックヤードへの入口扉へ向かう途中、 テナント前通路で呼び止められた。
「ああ、お疲れ様です」
立ち止まって真横を見ると、そこは漬物の専門店前。
百貨店などに多くテナントを出している有名店だ。
そして声の主は、その店の冷蔵ショーケースの向こうに立っているパートのおばちゃんだ。
俺がこの売り場に配属されてからの付き合いなので、もう4年来の知り合いだが、持ち場に近いこともあり、年齢に関係なく良くしてもらっている。
「私もうすぐ上がりだからさ。
朝もらったリスト通りに買っとけばいいんだね」
「ありがとうございます。
ほんっとゴメン、トメさん」
顔の前で軽く手を合わせると「いいのいいの」と、手を振るトメさん。
「今日ちょうどいい時間に上がりだし。
他でもない恵ちゃんたっての頼みだからねぇ。
まあ、がんばんなさいな」
意味ありげにニヤッと笑われ苦笑する。
「じゃ、買ったものは事務所の恵ちゃんのデスクに置いとくから」
お礼をいい、その場を離れようとすると、トメさんが「あ」と何かを思い出した様に声を上げた。
「何?」
「リカーコーナーの亮ちゃんが、上がる前に寄ってって言ってたよ」
「分かった。ありがと」
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