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「亮さん、お疲れです」
「お、恵介来たか」
閉店時間ちょうどのリカーコーナー。
今日はクリスマスイブの為自然閉店で、閉店のアナウンスとBGMが流れてもなかなか客足か引かない。
けれど、地下食品売場の1番端にあるこの売場には、さすがにもう誰もいないようだ。
和洋の別無く世界各国の酒類及びそれに関する雑貨を幅広く取り揃えているこの売場は、当デパートのちょっとした自慢だ。
そして今日ばかりはシャンパンの試飲カウンター係に徹していたイケメン販売員の亮さんもまた然りで、地元のマダム達にはちょっとした人気者だ。
早くも店舗前の什器の片付けを始めている。
「これ、持ってけ」
「え、わっ」
急にぞんざいに突き出され、慌ててそれを受け取ってから、更に驚く。
「亮さん、これ…」
深緑色のボトルにゴールドのラベル、黒とシルバーのロゴプリント、これは今店頭にずらっと並べてある、今年このデパート一押しのシャンパンと同じ物だ。
唯一違う点は、シャンパンゴールドの包装と赤とグリーンのリボンが剥がされていてボトルが剥き出しな所か。
「見ての通り試飲の残りだから。
とは言っても今最後の客が来た時に開けたやつだし、ほとんど減ってない。
とは言え明日には使えないからな。
持ってけ」
作業をしながら、亮さんが顎で示す。
「亮さん飲まないんですか?」
「今日はこの後外だから飲まない」
さすが、イイ男は今夜予定が無いはずがない。
ここはありがたくお言葉に甘えるか。
「ありがとうございます」
「おう、頑張れよ」
さっきのトメさんみたいなニヤ顔に、またも苦笑するしかない。
「一体何処まで話が伝わってるやら…」
「さあな。少なくとも莉花ちゃんにバレてなけりゃいいだろ?」
「まあ、そうですけど…」
なんとなく釈然としないまま答えると、亮さんが周辺を見回して言った。
「ほら、もう最後の客いなくなったみたいだぞ。
早くレジ締めさせてこいよ」
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