クリスマス・シフト

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BGMは既に今日何遍も繰り返し聞いていて、油断したら鼻歌でも歌っちゃいそうだ。 「いい加減聞き飽きちゃいましたね、クリスマスソング。 もうさすがにお腹いっぱいでありがたみがないというか、やる気を無くすって言うか…」 「それはまずいな」 松浦さんが、わざとらしく眉間にシワを寄せた。 「あはは、大丈夫ですよ。 仕事はちゃんとやりますから」 「………そう。 まあいいけど。 じゃあ、ちょっと俺、バック行ってくるわ。頼むね」 「あ、はい…分かりました」 会話のテンポがおかしくなった気がして、若干拍子抜けしながら頷いた。 松浦さんは後ろ向きで手を振りながらバックヤード入口扉へと歩いて行く。 あれ…怒らせちゃったかな… その背中を見送りながら途端に不安になった。 年齢は(多分)若いし、普段は軽い調子で話をしてくれるけど、松浦さんはこの売場係員のリーダーだ。 よく考えたらそんな責任ある立場の人の前で、『やる気なくす』だなんて、どんだけダメな発言したんだ私は。 さっきまでの浮ついた気分が、急にしぼんでいく。 松浦さんは仕事熱心で真面目だけど面白くて優しくて、皆から人気がある。 それは自分が面倒を見る責任があるレジスタッフだけじゃなくて、本当に売場全体から。 今も通り道にあるテナントの漬物屋のおばちゃんから声を掛けられて、笑顔で談笑している。 その様子はもう、いつも通りだ。 それだけに、さっきの会話でほんのちょっと訪れた間に、ちくりと胸が痛んだ。 皆に人気がある松浦さんと、私が1番仲良く話せるんだって調子に乗ってたのかもしれない。 単に古株なだけだ。 相手は大人の男の人だし、私みたいなまだハタチを過ぎたばかりの大学生なんて、ただのバイトとしか見られてないに違いない。 盛大なため息をつきそうになるのを、慌てて引っ込めた。 レジ台にお客様がカゴを置いたから。 「いらっしゃいませ!」 沈んだ気持ちを振り切るように、いつもより一段高い声で勢い良くお辞儀をした。
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