神のひとり子

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「ただ座ってべそべそ泣いていればお前たちの神は喜ぶのか? 助けてくれるのか?  幸せになりたいなら、自分でそれをつかむしかない。与えられないなら、あるところから奪うしかない。そうやって自分の力で幸福をつかむのが一人前の男というものじゃないか」 彼が自信たっぷりにそう言って艶然と頬笑むのを、ただ呑まれるように見入っていた。  悪魔が聖司の手をそっと持ち上げる。指し示す先には説教台。その上には献金箱があった。  月初めの礼拝には、教会員が教会維持のために定額献金をすることになっている。あの中にはたぶん、聖司が手にしたこともない「紙のお金」だってたくさん入っているはずだ。  信者ばかりが集う場所だと思って管理が甘いのだろう。聖司はごくりと唾をのみこんで、あたりをみまわした。ねらいすましたように、礼拝堂には二人以外の人影はない。  聖司は立ち上がり、ゆっくり説教台に近づいた。小刻みに震える手で赤いビロウドの布をめくる。内貼された籐編みの箱に片手を入れて、ひとつかみ、握り取った。 (これで、あのコマを買える)  そう思った。
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