神のひとり子

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 そのあと今井先生になんと答えたのか、今も聖司は思い出せない。  ただふらふらと施設を抜け出して教会へ向かった。誰もいない夕方の礼拝堂に忍び込み、十字架のかかった祭壇の前に倒れ込んだ。  月初めの礼拝の後だった。説教台の上には礼拝の途中でまわされる献金箱が、赤いビロウドの布をかけて置かれていた。  聖司は両手の指を組み合わせて祈った。教会学校でならったとおりに。 「天のお父様、僕は‥‥僕は、お母さんに幸せでいてほしいです。僕の弟か妹がふつうの家庭で幸せに暮らしていてほしいです。僕は‥‥お母さんの幸せを壊しません。僕は誰かの幸せを壊しません。我慢します。 そのかわり、一つだけ、僕のお願いをきいてください。それを叶えてくれるなら、僕は残りの人生を全部天のお父様のために捧げます」 少年はひそめた声で、しかし血を吐くように叫んだ。 「どうか――――僕をひとりぼっちにしないください」  孤独になりたくない。  そう一心に祈った。  望まれて生まれてきたのだと、誰かに愛されて生かされているのだと、さっきまで無心に信じていたのだ。
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