神のひとり子

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 誰にも怪しまれない。クラスメイトや聖ルカ園の子供たちには、今までどおり母親がくれたと言えばいい。今井先生には、クラスの友達が新しいのを買ってもらったから古い型のをくれたんだと言おう。  一瞬のうちに聖司の頭はフル回転した。  あれから十数年。時々、聖司は苦々しい気持ちで思い返す。  あれは神の思し召しだったのか。  それとも自分は悪魔の誘惑に負けたのか。  たぶん後者のほうだったのだろう。  しかし実際のところ、そのあとコマを手に入れた聖司はたくさんの友人と遊ぶようになり、あまり寂しい思いをしなかった。  「ほら、もっと! パワフルに! 回転数上げて!!」 「うおおおおおおっ」  しゃかしゃかしゃか。  ボウルと泡立て器がぶつかり合う音が教会のキッチンに響く。  かわいい花柄のエプロンをしたミカエルが、さっきから必死で卵白を泡立てている。色素の薄い頬は上気して、ポインセチアの葉色のようだ。
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