神のひとり子

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「も、もういい?」 息のあがったミカエルが聖司にたずねる。 「ツノが立つまでですよ」 「ツノ?」 泡立て器をそうっと持ち上げると、クリーム上になった卵白が峰を作る。泡立て器が卵白の山から離れると、細くなった先っぽがへにゃ、とお辞儀をした。 「残念。もう一息ですねぇ」 それほど残念そうでもなく言う聖司に、ミカエルは手の甲で額の汗を拭いた。 「去年‥‥去年はこんな大変じゃなかったのに」 「ああ、去年まではシュトーレン風のフルーツケーキでしたからね。でもああいう、ぎっちりした焼き菓子は子供ウケがよくないみたいで。 今年はふんわりシフォンケーキにチャレンジすることにしました。降誕劇と聖歌隊頑張った子へのご褒美ですからね」 さ、君も頑張って、と涼しい顔で言う聖司。キッチンの作業台にはすでに紙を敷いたケーキ型がいくつも並んでいる。 「よーし」 ミカエルが腕まくりしなおして再び泡立て器を握る。 「父と子と精霊の御名によって! うおおおおっ」 必殺技じみた宣言をはさんで、再びキッチンからしゃかしゃかしゃか、と地味な音がし始めた。
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